令和4年度 日本博主催・共催型プロジェクト
https://japanculturalexpo.bunka.go.jp/
自然と共生する舞台芸術ーーー世界の未来へ向けて
https://www.scot-suzukicompany.com/sss/2022/nature.html
「紙風船」岸田國士
演出:島貴之
芸術監督:鈴木忠志
制作:SCOT
@富山県利賀芸術公園 利賀山房
9月2日(金)18:30/9月3日(土)12:00
結婚1年目の夫婦のたわいもない会話劇『紙風船』は、日本近代戯曲の代表作ともいわれる1925年の作品。
時代の潮流に翻弄されながらも抗う小さき者たちにエールを送る。
■出演
夫:田中壮太郎
妻:寺内亜矢子
Otto:時田光洋
Tuma:梨瑳子
■スタッフ
美術・衣装・音響:島貴之
フィジカルアドバイザー:山田洋平
照明:加藤九美
照明補佐:荒沢寛子
制作:SCOT
主催:公益財団法人利賀文化会議、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
共催:SCOT
委託:令和4年度日本博主催・共催型プロジェクト
<演出ノート> 島 貴之
具体的にいつ誰からというのは覚えていないが、「人に何か話すときは目を見て話しましょう」と言われて育った。私も大人になったので今はその言い分もわかるが、もし自分に子供がいたら違った風にそのことを語るつもりだ。見るという行為はきちんと使い分けないといけない、うかつに他人の目なんか見てしまうと首の後ろあたりがぞわっときて、何かが始まってしまう。そういう時も必要だけど、たぶんいつもではないよ。…とかなんとか。
私の創作はいつも、俳優に教えてもらうという姿勢でいる。
俳優のちょっとした言葉や身体を眺めて得られる情報に、その作品が歩む為の手掛かりが潜んでいると考えている。私にも自分のイメージを舞台上で具現化したいという野心はあるが、目の前にいるのはその人なりの人生を持った人間なのだ。私と同じように、不安で、孤独で虚しさを感じているが、そのくせ小さなことに喜び浮かれたりする柔らかな存在である。そして、それぞれの体の中に孤独な宇宙がある。だから私の演劇は試みるものであって、プラモデルのように設計図があって完成に向かって行うものではない。そういう在り方だから「俺は偽物だ」と俳優にも宣言している。このまま偽物道を突き進むしかないことに絶望もするが、膝小僧を擦りむいた程度についた傷を誇らしく思っている自分もいる。
紙風船は、日本の近代化の中、恋愛結婚した若い二人にふと訪れた時間が描かれている。一緒にいようとしただけの男女が、夫に妻にそして夫婦になる。周りには、新しい素敵な物が溢れている。子供がいたら違ったかもしれない。
この戯曲で岸田國士は新しい舞台空間の指定をしたのだろうが、最小限の小道具で上演することができるので今も多くの稽古場で若い俳優の演技の訓練に使われている。薄くてペラペラで中身は空気の、突いていなくては落ちてしまう紙風船が、現れては消えている。
想像すると面白い。結婚するあても、恋する相手もいないかもしれない貧乏な若い男女が、「ここにきてみろ。」「いやそんなことしちゃ。」とかやっているのだ。夫の新聞の音読から始まって、対話風の会話、空想の鎌倉旅行があり、うまく出来ているエンディングを迎える。この流れの中、俳優同士は他者と向かい合うことに充実を得るが、それはそれでごっこ遊びなのだ。私は戯曲の中の夫と妻が置かれた状況と、俳優がこの戯曲を演じ続けてきたことは実は同じ構造を持つのではないかと考えている、そしてその両方に等しく「よしゃあいいのに」とエールを送る。