黒澤世莉ワークショップの見学記

金沢で行われた黒澤世莉さんのワークショップ《はじめてのサンフォード・マイズナー・テクニック 3日間クラス》を見学してきました。

Potluck Theaterがシリーズで実施している企画の第3回。
現在、演劇や舞台芸術は実に様々な方法・スタイルがあります。Potluck Theaterの演出家・島貴之が金沢の地でワークショップ参加者が、世界の多様な人々と舞台芸術と出会うきっかけになることを願って企画されました。
近年、島とPotluckTheaterは10代の学生や若者の演劇活動にも携わる機会の増えたことで、そんな若い世代の人達にも気兼ねなく参加してもらえれば、と今回はワークショップ参加費を無料にしての開催となりました。講師に黒澤世莉さんを迎えた《はじめてのサンフォード・マイズナー・テクニック 3日間クラス》を見学してきました。そのレポートです。

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私は今までにサンフォード・マイズナー・テクニックに触れた経験はほとんどなく、見学の立場からですが、初めての順序立った学びの場となりました。

初日のクラスは、緊張のある参加者を前に黒澤世莉さんの朗らかな空気感をまとった挨拶から始まり、参加者1人ずつの自己紹介をゆっくりと、今回のワークショップに参加した動機や目標を話してもらうところから始まりました。

そしてサンフォード・マイズナー・テクニックは未経験だと言う参加者の多い中、マイズナー・テクニックは(サンフォードは略して話されることが多いそうです)俳優のための訓練法であるという事や、俳優は頭と身体と心を使っている、というような基本的な考えから丁寧に説明を進めていきます。

説明の後にはちょっとずつ実践。
〈リラクゼーション〉という身体と心の状態を整えるエクササイズや、〈レペテション〉というペアになった相手と言葉を繰り返し発語しながら、2人の間や自身の心、身体に起こる衝動や感覚を掴まえようとする、さらにその感覚を行為として動きにしてみようとする、そんなエクササイズに取り組んでいきます。
正確には分かりませんが私にはそういう事が起きているように見受けられました。

繰り返すために口にする言葉は、目に見えるコトガラや、自分の中の状態、相手の様子に見える、又はそう感じられる状態などですが、見学者の私には先ずどんな言葉を見つけて発するのか?は、けっこう難しそうでした。そしてその相手が発した言葉をオウム返しに繰り返していく作業は、単純そうにも見えつつ、そのエクササイズの遊びのルールを身体で理解するまでなかなか困難そうだとも思いました。
世莉さんは(冒頭の自己紹介で参加者の皆様に“世莉さん”と呼んで、と仰っていたのでここでもそう書かせていただきますね)必要に応じて、意識的にやると良い事柄を指摘していきます。主には“相手を見る”ことや、“何が見えているか?”と参加者自身に確かめたり、“相手に言葉を伝えて”いくことなど。シンプルなことが多かったように思います。

ある程度の時間、ペアになっての〈レペテション〉ワークを終えた後は、全員でフィードバック、振り返って感想などを話しました。
個々の参加者が感じたことや考えたこと、あるいは疑問もあり、何でも話します。それについて、世莉さんも細かく応えます。
三日間通して幾つも印象に残った世莉さんの言葉がありますが、「エクササイズがうまくできない」というような感想に対して、「〇〇でなければいけないと考えなくて良い」ということや、「自分で選択してやっている、と考えて欲しい」(例えば講師である世莉さんの為にではなくて)というようなコメントは個人的にも大きく響きました。(世莉さんの言葉は正確ではないかもしれません)
ワークショップと言う機会では、時に受け身になってしまうこともあると思いますが、プロの俳優にならないとしても、プロの演出家にプロの演技術、訓練法を学びに来て、はじめてのエクササイズの中で瞬間瞬間何をやるのか、またその機会自体を自分で選んで取り組んでいる、そんな自立した取り組みを求められている、その姿勢が基本にあるように感じました。

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2日目のクラスでは、初日の振り返りから始まりました。
改めて疑問点等があればどんな小さいと思うようなことでも言って欲しい、との世莉さんの言葉で参加者も少しずつ慣れてきたのか、発言の種類も増えてきたように思いました。
〈リラクゼーション〉と〈レペテション〉に加えて〈子供の部屋〉と呼ばれていたように思いますが、もう一つのエクササイズにもトライしていきます。
世莉さんの言葉の導きで、その言葉は短くてあまり多くはありませんが、参加者が自分の子供時代、その部屋の情景を想像する感じ。
自分で実際にやったわけではないのではっきりとは言えませんが、身体のリラクゼーションのエクササイズに続けてそれをすることで、普段の生活の中では意識しづらい敏感でナイーブな感覚を呼び起こしていければ、という狙いかと見ていました。と同時に、自分の子供時代、部屋のビジョンを明らかな映像として見る、想像する事はかなり難しそうだと思ったのも事実です。

クラスの流れとしては、子供時代を想像して変化の起こった身体、心持ちのまま、相手とのレペティションのエクササイズに移っていきます。それぞれのエクササイズが連なって、普段の生活とは違う、演じるときに必要な状態の身体になるための訓練なのだろうと見ていました。

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3日目はワークショップ全体の時間も長く用意されていたので、前日の振り返りや質問を経て、リラクゼーション、子供の部屋/子供の玩具、相手とのレペティションのエクササイズを何度か繰り返して進んでいきます。とはいえクラス全体として急ぐわけでもなく、合間に休憩を挟んで丁寧に進行していきました。
“感情は湧く”と言う世莉さんの予言的な説明も初日にあったように思いますが、実際に強い感情とそれに伴った身体の状態が参加者から現れる時もありました。
参加者全員に目を光らせている世莉さん(とワークショップの助手として来てくれた新潟の松井さん)は強い感情の起こった人々のエネルギーを自然に流れるように、いろいろな言葉と働きを投げかけておりました。

あ、そうだ!今回のマイズナーテクニックのワークショップ会場には、一つの枕/クッションがありまして、それはエクササイズ中に激しい、暴力的なまでの強い感情や衝動が生まれたときに、相手役や周りのものに当たるのではなく、その柔らかい枕/クッションにエネルギーをぶつけていいとされ、その枕は〈ピロー先生〉と親しみを持って呼ばれていました。


3日目の最後のエクササイズでは、事前に参加者に渡してあった短い会話のテキストも合わせて使いました。まずレペティションエクササイズをしている2人組に世莉さんが良いタイミングで「台詞!」と合図をすると、お互いに繰り返しながら発話していた言葉を止めて、用意された台詞を言いだすという感じです。その時に、台詞の中身を演じよう表そうとするよりも、それまでやっていたレペティションの会話で生じていた感覚、衝動のまま台詞を口にするというのが秘訣のようでした。やっていること自体は、3日間の間に取り組んできたレペティションのエクササイズと大きく違いませんが、一ペアずつ全員の前でやってみるという事は、観客に見られている舞台の本番にも似た状況なのかもしれません。それぞれのペアが、それぞれの相手だからこそ起こるであろう反応、その2人ならではのやり取りに真っ直ぐに取り組んでいる、と思いながら私は見ていました。
と同時に緊張しいでものすごい不安感とともに苦労していた自分の若い頃、演じることに触れた初めての頃のことも思い出していました。

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3日間の見学を終えて、自分が体験したものを振り返ると、《はじめてのサンフォード・マイズナー・テクニック 3日間クラス》と題されたワークショップではもちろんあるのですが、同じようにこうも言えるような、、
黒澤世莉さんという演出家(この人はマイズナー・テクニックを習得もしている人)が金沢の地で演劇/演技の手法を使いながら、集まった参加者の皆さんはそれぞれの環境から勇気を持って世莉さんに会いに来て、ひょっとしたら自分自身の深いところにある何かにも勇気を持って会おうとする時間を過ごした場でもあった、ような気がしています。

“演劇は、大抵どこかで人が人に会って何かをするものだ。”とするならば、今回の世莉さんのワークショップも、来週の清水さんのワークショップも、またPotluck Theaterの作品作りもすべて大いなる演劇の中に括られるものかもしれません。

Potluck Theater 時田光洋