かもめマシーン 清水穂奈美《どうやって歩く?話す?「関係」から演技のからだをみつける》WSレポート

「そもそも”関係”って何?」
というお話しからスタートしたWS。 初日は、穂奈美さんの醸し出す柔らかで親しみやすい空気感の中で、ゆるゆるとストレッチをしながら、まずは穂奈美さんの口から「関係とはなんぞや?」という言葉が飛び出しました。

肩に力が入るようなスタートではなく、普段の穂奈美さんの稽古場にさらっとお邪魔したような気分になる始まり方は、参加者の方々にとっても彼女が近しい存在に思えたのではないかと思います。 関係について考えていると、ご本人も度々ゲシュタルト崩壊することがあるようで、その都度日々考え直すという作業を行なっているという穂奈美さん。

日本語大辞典から、「関係」の意味を引いた言葉をシェアしてくれて、その中でも、 「互いにかかわり合っている」というところにアンダーラインを引いて、これが関係の大事なところなのではないかと説明してくれました。

そこから、ご自身の創作時に常に考えているという「どんなからだが必要だろうね?」というお話に。 ”関係からからだを変えていくことができる”と穂奈美さんはおっしゃいます。
場所・見てる人・照明・舞台美術・空間など、これらとの関係を意識的に見てみることによって、私たちのからだは変化する。
「関係」自体は変えることができないもの、しかし、捉え方が変わることで「関係」は変えることができる。
穂奈美さんは、舞台上で、”何と、どういう関係でいるか?”を常に考えているとおっしゃいます。

これは、舞台上や俳優に限らず、日常生活でも関係を固定的に捉えると、逃げ場がなくなってしまうというお話をしていました。 つまり、関係を変えることができると、生きづらさを変えていけるのではないか、という穂奈美さんの言葉はとても印象的でした。 何の、どこが、どう組み合わさって、この状況が生まれているのか。その背後にあるものを考えること。そしてそのためにはよく観察すること。 関係を変えられると生きていくことも楽になる、というのは、素敵なワードでした。

そんなお話の中、ではまずは自己紹介を車座ではなく、みんなの前で行いました。 その後、もう一度自己紹介をし、今度は誰か一人に向けて行ってみる。(立ち位置などは自由に。) 2回目(誰か一人に向けた自己紹介)の方が、聞いている人がいると意識をするだけで違う、少し丁寧にまろやかになったという意見が出ました。 また、距離が変わり、思考が変わり、話しているトピックは同じだけど、一人に話した方が(話の)つながりがより明確になったように感じたという意見も。

自己紹介も、関係を変えることによってその人の声の大きさやトーン、話し方や表情が変わる、という体験になりました。
そしてワークへと入っていきます。 穂奈美さんが何やらメジャーとテープを取り出し、ラインを引いていきます。


◎5mを10分かけて歩く

ゆっくり歩く。まずは穂奈美さんのデモンストレーション。
みんな息をのむように、穂奈美さんの歩きに集中していました。 なるべく止まらずに、ゆっくり等速に歩き続ける。
初日は、2チームに分かれて2回ずつトライをしました。 皆さん目が飛び出るように驚いていましたが、そんな初めてのワークも真剣に取り組み、なんと全員10分前後で歩いていました。(すごーい!)
感想としては、からだの緊張を感じている方が多く、リラックスするにはどうしたらいいのだろう、という話題が上がり、 そして目線について悩んでいる方もいらっしゃいました。 ご自身で、イメージや設定を作って歩いてみたという方もいましたね。



そして2回目のトライでは、ゆっくり歩いているのではなく、その5m10分が当たり前の人として歩くにはどうしたらいいのだろうか?がキーポイント。 そこで上がったものは、 ・歩くことを気にしない ・周りのことへ意識 ・聞こえてくる音をきく ・目的地を決める ・リラックス さらに、穂奈美さんからのヒントで、
①ゆっくりの時間に入っていく
②(自分ではなく)景色が動いている の中で自分がしっくりくるもの(そのほか自分で思いついたものでも)をピックアップしてトライしてみる。
ゆっくり歩くのを、みていることでも気づきや発見があり、とても面白かったです。 ゆっくり歩くことで、その個があらわになる、まさにその時間に立ち会いました。

2日目も、とにかく歩きました。 散歩をするように歩くところから始まり、その時に歩いていたそれぞれの感覚を聞いて、穂奈美さんがちょっとしたオーダーを追加して、歩いてみる。 個々がそれぞれに感じていることを拾い上げて、みんなでやってみるというのはとても豊かな時間でした。

そして、5メートルを10分かけて歩くワークにも、少しずつ新しい要素を取り入れていきました。 各試行ごとに、新しいタスクを一つずつ追加して行いました。 タスクが加わってくると、自然と歩くことに意識がいかなくなったり、歩くのが速くなったり、からだがリラックスしたり、そのまた逆が起こったりと、 みんな同じゆっくり歩くなのに、こんなにも変化があるのかと、とても興味深かったです。

それぞれの参加者が、やってみた感想、みていて気づいた感想を紡いで、穂奈美さんがあたたかく皆の意見を聞いているのがとても厚みのある時間だなと感じました。 そして、参加者の感想からさらに一歩踏み込み、どうしたらもっと「よりよくなるか」を考えてみましょう、と穂奈美さんが皆に提案していたことが、まさに彼女の演劇の稽古を擬似体験しているような感覚になったのではないかと思います。
穂奈美さんは、ゆっくり歩くことを丁寧に行うこと、その中で物との関係や気づき、アクションをどんどん「明確にしていくこと」を繰り返し強調していました。 普段は無意識で行なっていることを、演技では意識してやることが大事。 なので、とにかく丁寧に丁寧に、もっと丁寧にできるのではないかと貪欲にトライし続けることを伝えてくれていたのではないかと思います。

◉変化は相対的にしか感じられない→変化の明確さ=落差
◉関係=受動・能動の両方が同時に起こる→演技をしようとすると能動に偏っていく→ただ見る、ただ聞く、出会ってみるという受信の仕方

表現は、しようとするとその表現をしようとしている態度の方が見えてきてしまうと穂奈美さんはおっしゃいます。
今回、ただひたすらみんなで行ったゆっくり歩くというワーク。 穂奈美さんは、こんなふうに言います。
───どんなに上手だな、と思う俳優さんがいても見えているのは、たったちょびっとの氷山の一角の部分。その下には見えていないたくさんのものがある。このワークには、基礎的なことがたくさん詰まっているので、基礎をしっかりと固めるために続けて、そして考えて、自分のからだと向きあい関係を模索していくのはとても良いのではないでしょうか。著作権もフリーだと思いますよ!ですって!

今回のWSを終えて、「参加者が穂奈美さんに出会う」ということが確かに実現したのではないかという喜びを感じています。 彼女がどのように演技や演劇を考えているのか、また、舞台上に立つ際に何を意識して何を大事にしているのか、さらに何に取り組み続けているのか、それを少しでも感じることができたなら、ワークショップの主催者冥利に尽きると思います。
彼女のとにかく探究し続けている姿勢。その姿勢が、何よりも若者への刺激だったのではないでしょうか。 事実、WSが終わった後、彼女の周りに参加者が集まって、質問攻めでみんな離れませんでした♡

Potluck Theater 梨瑳子